テストの見直しについてご質問を頂くことがあります。これは主に算数のケアレスミスに関わったものです。
失点したのは見直しをしなかったからではない
これをまず意識して頂きたいです。失点したのは、計算過程・問題の読み取り・字の書き方などなど・・・がグラグラしているからです。見直しをしなかったからミスをしたわけではありません。この前提が逆転してしまっている生徒・ご両親が多いように思います。
お子様がミスで失点した時に「なんでミスするの!」とか「しっかり見直しをしなさい!」と叱るのはよくあることで、お気持ちはとてもよく理解できるのですが、意味がないどころか、逆効果です。
大切なのはミスの原因を具体的に分析することです。
見直しはミスの温床
「見直しをしなさい!」と言って、見直しのためのシステムを親が構築して(残り何分になったらやり直すなど)、見直しを強要すると、明らかに良くないことが起きます。
つまり子供というものは後で見直すことが決定していると、1回目が甘くなるということです。少し自信がない計算でも放置したり、少し字が汚かったり、筆算の桁がずれても、「まぁ、いっか」となりがちです。
そしてミスの原因を「見直しをしなかったこと」や「見直しでミスに気づかなかった」ことに求めてしまいますが、これは論理が倒錯しています。
本来ケアレスミスなどない
このサイトでも何度も書いてきましたが、ケアレスミスなどというのは本来ありません。
例えば『0と6を見間違える』のは注意力不足(ケアレス)ではなく、普段からそのように書く癖がついているからです。ですから親が注意すべきは「見直しをしなさい」ではなく、「0と6をしっかり見分けられるように書く癖をつけなさい」と穏やかに伝えることです。実際に何度も書かせて、はっきり区別できる文字を定着させるとよいです。
問題文を読まず、『太郎くんの速さを答えるべきなのに、次郎くんの速さを答えてしまった』場合も、ケアレスミスではありません。問題を解き終えていざ解答を解答欄に書くという仕上げの段階で、再度問題を読み直して『何を答えるかに線を引く』という作業を怠っているからです。こういう生徒は、失点した問題だけでなく、この作業をいつもやっていないのであって、正解していた問題はたまたま正解していたに過ぎません。つまり間違えた問題がケアレスで、正解した問題がケアフルだったのではなく、どちらも『偶然』です。ですから、やるべきなのは『見直し』ではなく、最初から『何を答えるかに線を引く』ことです。
その他、ミスの原因は『筆算の仕方』『計算の工夫』『暗記すべきものを暗記していない』『解法そのものが甘い』など色々ありますが、全て別のものと捉えて、それぞれについて落ち着いて解決してください。
繰り返しになりますが、「しっかり見直しをしなさい!」と言っても意味はありませんし、お子様のメンタルの問題でもありません。言えば言うほど、子供は間違いの本来の原因を考えなくなりますし、1回目の解答がいいかげんになりますし、算数が嫌いになります。
見直しをする時間は基本的にない
このサイトをご覧になっているのは、難関中学を目指す生徒が多いと思います。いわゆる『難関』と言われる中学に限らず、中学受験では算数に関しては、時間が足りなくなるようにできています。
現実問題として、算数のテストを全部解いた後に、ミスがないか見直している時間はありません。
また見直すといっても、全部問題を読み直し、全部計算しなおすのでしょうか?算数のとても苦手な生徒が後半の問題を捨てて、前半の簡単な問題を2回解くというような場合もありますが、これは最終手段であって、塾のテストなどでは応用問題までチャレンジする癖をつけるべきです。
見直しをするなら自信のない問題を最初にチェックしておく
どうしても『見直し』をしたいのであれば、解いていて不安のある問題を2,3問程度予めチェックしておき、その問題だけを解き直してください。最初の計算問題だけ解き直すと決めておいてもよいかもしれません。
「このパターンはよく間違えるからこれだけはやり直す」でもよいかもしれません。怪しい問題にチェックをするという作業自体に生徒自身の意識が働くので、1回目からミスが減る効果もあります。
解き直しをするときは、フレッシュな状態で計算し直さないと意味がありません。もともと書いてある計算式や筆算などを使っては同じミスをするだけです。
もちろん時間がかかりますので、多くて数問です。
解き直しが正解とは限らない
時間がない状態で最後の1分で無理やり解き直しをしていて、間違いに気づき直前で直して、「あぁ、よかった!」と思っていたら、解き直しの解答が間違っていて、最初に書いていた解答の方が正解していたというのは、よくあることです。
つまり、見直しで2回目を解いて、ミスが見つかったとしたら、より慎重に3回目を解いてみる必要があるということです。
本来はそのような時間があるならば、解けていない問題にチャレンジすべきです。難しそうに見える後半の問題も全部書き出してみたら意外と解けるものです。
見直しをするならばその場で
まずミスの原因を普段の勉強から排除するように練習することです。
どうしても見直しというならば、個々の問題を解き終わった時、もっと言えば1つ1つの式や計算が終わった時にすべきです。
問題を解いていると「あ、今の解答おかしいかも」という予感のようなものに襲われることがあります。これは数値がすっきりしなかったり、自分の計算になんとなく甘さを感じたりするなど、様々な原因があります。いわゆる『ミス』が少ない子は、この予感に襲われた時にその場でチェックしています。この安全装置が働くから失点が少ないわけです。
この方がミスに気付きやすく時間を無駄にしませんし、そもそもミスをしないという感覚が身につきます。計算過程や数値の妥当性についても普段から意識できるようになります。
ミスは誰でもある
ミス0は本来無理です。「ミスが10点もあって、ミスがなかったら80点だから、難しい問題を解けなくても、それだけで偏差値60だったのに、もったいないよね」となどとおっしゃるご両親が多いです。
こうした発言には少し勘違いが含まれています。実際に80点を取った子もミスをしているという事実を見落としているからです。つまり80点だった子は、10点のミスがなければ90点だったわけです。
高得点の子でも数問ミスをしている場合がほとんどです。たまにミスが0という場合もありますが、数回に1回偶然そうだっただけか、とんでもなく実力があるからです。
高得点の子は難しい問題を解き切る力があるから、ミスがあっても高得点なのです。
難しい問題を捨てて、ミス0で、高得点を取ろうという戦略はほぼ無理です。これはご両親が実際に算数の問題を『時間内で』解いてみるとすぐにわかります。ミス0というのはご自身もできないはずです。絶対にくだらないミスをしてしまうものです。
もちろん1回のテストでいわゆる『ミス』が5個以上もあるような場合は問題ですが、2,3問はブレの範囲です。
ミスは本人がなくそうと思わないとなくならない
いくら言ってもミスがなくならない、字が綺麗にならないとのご相談をよく受けます。「家庭教師の先生からも言ってください」というものです。
家で散々言われ、塾と学校でも言われ、それでも無くならないものは、家庭教師に言われてもなくなりません。「気をつけなさい!」「字を綺麗に書きなさい!」と漠然と叱る人が1人増えたとしてもミスは無くなりません。勉強が嫌いになってしまう危険も大きいです。
僕が指導する上で気を付けているのは、ミスの本当の理由を『たまに・さりげなく・おだやかに・具体的に』指摘するということです。
子供は誰でも「テストで良い点を取りたい」という気持ちがとても強いものです。ある時期になってある程度の実力があればミスは減ってくるものです。本人が自分で直そうとする機会を邪魔しないということが大切です。